お金を貸してた元同僚の女の子にお金を返した。
意味が分からないかも知れないが、一度だけ返してくれた事があった、それは受け取った封筒のまま大切に仕舞っておいた。
それは間違いなく彼女が稼いだお金であり、俺が稼いだお金ではない、なので大切に仕舞っておいた。
この3月で彼女は他県での仕事を辞め、再び地元に戻ってくる事になった。
なので、預っていたお金を返した。
話しは前後するが、過去にもお金を貸してあげた女の子が居た。
貸したとたん音沙汰無し、携帯すら解約してやがった。
最終的に共通の知り合いを通じて実家の母親に連絡する事で、一年越しで返して貰った。
俺、彼氏でもなんでもないで?
俺、金持ってるみたいに見える?
俺、そんなお人好しに見える?
俺、騙され易そうに見える?
そんな苦い経験があった。
会社を辞めて一年ぶりに彼女から連絡があったと思ったら、友達にエエカッコした挙句に家賃を払えなくなったと泣き付かれた。
「私の目を見て下さい!」
「必ず返します!」
「他に頼れる人が居ないんです!」
デジャヴかと思ったよ、前に騙された女の子と同じセリフだった。
俺の地元にまで押し掛けてくるので、俺の過去の苦い経験も話した上で言われるがままの金額を渡してあげた。
俺は金貸しではない、なので
「利子は要らない」
「事情でキビシイ時は要らない、連絡だけはしてくること」
「俺からは催促しない、毎月自分から返しに来ること」
「帰りは送ってあげる」
そう約束し指切りげんまんした。
一年ぶりに会った彼女は酷く痩せていて弱々しく見えた。
力一杯抱き締めたかったけど、壊れそうだったので優しく頭を抱きしめた。
彼女の名誉の為に予め書いておくけど、お金を貸した事での肉体関係は一切無い。
その後彼女は住んでいた所を引き払い、他県のパチンコ屋に住み込みで働く事になった。
そんな彼女が新たな旅立ちを決意し、この3月で仕事を辞め地元に戻ってくる事になった。
1年で返して戻ってくる約束だったが、戻ってくるまで7年掛った。
その間も約束など全て守らず、それどころか努力の欠片すら見せなかった。
「行けません、取りに来てください」
「6月には返しに行きます」
「今年中には行きます」
「1月には、2月には、…」
行きの電車賃にとプリペイドカードまで渡したがこんな調子だった。
そのうち連絡すらこなくなり、ストレスからとうとう俺は3月に病気になってしまった。
それまでも小さな体調不良は何度もあったが、今回は顔に水泡ができ始めた。
虫に刺されたかと思ったが、何だか耳の中にも違和感があるので大きな病院で診察を受けてみる事にした。
確か最初に耳鼻科に回されて、その後は色々と精密検査を受けたっけか?
一通り検査が終わって呼び戻されて結果を告げられた。
「緊急入院して貰えますか?」
いきなりの告知で何かの間違いかと思ったよ。
「これは『帯状疱疹』です、頭部に出てますので非常に危険です!」
「『脳炎』による命の危険もあります!」
「治っても『難聴』になったり言葉を失う可能性もありますよ!」
「内服薬もありますが緊急入院を薦めます!」
「とにかく直ちに点滴を受けて下さい!」
結局その足で緊急入院し、毎日4回の点滴を1週間受けた。
退院後も1ヶ月ほど内服薬が続き、検査と麻酔で毎週通院した。
「原因は免疫力の低下で主に高齢者に多いのですが?」
「何か極度のストレスに心当たりありますか?」
心当たりはあっても言えなかった。
通院中には全身に湿疹が出た、投薬の副作用による『薬疹(薬アレルギー)』だった。
ステロイド系の薬だったので『ムーンフェイス』って言うのかな、顔が真ん丸になって急激に体重が増加した。
頑張って摂生したら、今度は健康診断で「やせ気味」と診断された
何とか命には別状無く大きな後遺症も残らなかったが、体に水泡の傷跡が残り時々体調を崩す様になってしまった。
『嘘つき』て嫌いなんだ、特に『自分の為に誰かを騙す嘘』てのが。
『騙す側』と『騙される側』、世の中に二通りの人間が居るのならば、俺は『騙される側』で結構だ。
他人を騙しながら生きて行きたいとは思わない。
TVのドッキリ番組とか大嫌いなんだよね、誰かを騙して晒し者にするなんて人が悪いよ…
それを見ながら笑う連中なんてクズだ、俺は『騙される側』で構わないよ。
『世界で一番可愛い女の子』
だけど
『世界で一番嫌いな人間』
俺にとって彼女はそんな存在だった。
色々な人に相談した、小学校からのツレの嫁が言った。
「最低な子やな!」
「ロクな人間ちゃうで!」
「もー相手にすんの止めとき!」
ツレの嫁、とどのつまり赤の他人の前で思わず泣いてしまった…
「○○君、どーして泣いてるの?」
幼い三人の子供の前で泣いてしまった、悲しくて悲しくて涙があふれた…
だけど、俺の口からは
「彼女の事を悪く言わないで…」
とだけが一言こぼれた…
約束を守ってくれなかった事よりも、彼女の事を悪く言われたのが俺には辛かったみたいだ。
精一杯、俺にできる精一杯でカッコつけたかった。
「長い間頑張ったね」
と優しく頭を撫でて渡してあげるつもりだった。
返してくれたのは1度だけ、全額には程遠かったが決めていた事だ、だから彼女に返す事にした。
「バカだ」と笑いたければ笑えば良い。
「お人好しだ」と陰口を言いたければ言えば良い。
「ラッキー」と喜びたければ喜べばよい。
何を思うかは彼女次第、彼女自身への問い掛けだ。
それが今後の彼女の糧になれば俺はそれで良いんだ。
今でも内緒だが彼女の実家にも何度か足を運んだ、でも、何もできずに引き返した。
法律とか訴訟の起こし方、弁護士事務所とか色々調べたけど何もしなかった。
本当は怖かったんだ、だから結局俺は逃げたんだ…
お金が返ってきたら彼女が居なくなってしまいそうで怖かった…
心の中ではお金が帰ってこない事を望んでいる俺が居たんだ…
何時も彼女は俺の事を「優しい」と言ってくれるが、ただの弱虫なだけだと思う。
返す時には「何も言うな」と告げて渡した、けれど彼女は「ありがとう」とメールを送ってきた、
「アキラメてくれてありがとう」
俺にはそんな風にも聞こえた。
そう聞こえてしまうであろう自分が嫌だった、だから何も言って欲しくなかった…
全部彼女の責任にして俺の方が逃げたんだ…
「俺から答えは出さない」、本当は一番卑怯なやり方かも知れん…
俺はヒドイ男だ、最低なクズ野郎だな、マッタク…
お察しの通り、俺は全くモテません。
二枚目でも三枚目でもない、どっちかつーと強面で無愛想。
歌ったり踊ったり、何か秀でた事も持ち合わせてない。
動物には結構モテるんだけどね…
人間の『器』て人それぞれ決まってると思うんだ、「何かを得る為には何かを捨てなければならない」って。
去年の春に見合いをした、クリクリした目の俺より一回りも若い女性だった。
不思議にも俺を気に入ってくれた、丁度スイーツにハマってた時期でその話しが面白かったのか?
でも俺から断った、周りからは「何て馬鹿な男」にしか見えなかったろうな…
恋人でもないし当然ながら肉体関係にも無い、ただ一緒に居るだけで幸せなんだ。
俺は一生彼女の側に居たい、だから俺は俺の事を気に入ってくれた女性を捨てた。
『Leon』て映画が好きなんだ。
殺し屋に憧れたりはしないが、主人公の生き方が好きだ。
図々しくも俺と彼女の関係に似ている気がする、俺がレオンで彼女はマチルダ。
あの時彼女は助けを求めて俺のドアをノックした。
躊躇したけど俺は彼女を助けた。
劇中でレオンは眠るマチルダを撃ち殺そうとして思い止まる。
やがてレオンはマチルダに心の安らぎを見出す様になる。
彼女を助けた事で最後は命を落とす、俺も金なんか要らない…
暫く連絡が無く会えない時もあったけど、他県の彼女の元を7年間毎月訪ね続けた、
「返しに来れないなら俺から行ってあげる」
と言って。
行きは彼女に会えるワクワクと、彼女と会えなくなるかも知れない不安で怖かった…
帰りは彼女が約束を守ってくれなかった事が悲しく、彼女と来月も会える事に安堵した…
会えない間も毎月彼女の勤めているパチンコ屋に通った。
ナイショだったので店の外から彼女の働いている姿を1時間ほど眺め帰った。
会えても会えなくても、行き帰りの車内は精神的に押し潰されそうだった…
だけど、彼女と喋ってる時や彼女を眺めている時だけは楽しかった、全てを忘れる事ができた。
「3月で辞めて地元に帰ります」と聞かされた時、少し早かったけどホワイトデーで用意してあったペンダントを彼女に贈った。
ペンダントには
『Nothing shell change my feelings towards you.』
と刻印されていた。
彼女から
「何て書いてあるんですか?」
「どーゆー意味ですか?」
と聞かれたので、
「小さくて良く読めないなぁ~?」
「『変わるな』って書いてあるな?」
「『頑張る気持ちを変わらず持ち続けろ』って意味やで」
「これからも新しい目標に向かって頑張れよ」
「俺はいつでも応援してるぞ」
とか何とか適当な言葉を並べた。
それが今の彼女に掛けてあげるべき言葉だと思ったからウソをついた。
『何があっても、あなたのことを好きな気持ちは変わらない』
知っていたけど本当の意味など怖くて言えなかった…
「始まらなければ終わりはやってこない」
間違いなのかも知れないが、そう自分で自分に言い聞かせてきた…
ウソつきが大嫌いなクセに、ずっと彼女も自分も騙していた…
俺の命ある限り彼女の側に居たかったのでウソをつき続けてきた…
これからも、多分…
ワガママで自分勝手で生意気で、でも、それも含めての彼女なんだ。
初めて彼女を見た時にはビックリした、
「この世にこんな可愛い女の子が居たんだ…!」
こんな俺ってアホウなのかな?
彼女の側に一生居てあげたい、彼女の望む事に命懸けになりたい。
それだけが俺の全て、他に望む事は無い。
どこぞのCMのパクリだが、
『単純で口下手で女(彼女)に弱い』
俺はそんな男でありたいと思うんだ。
出会ってから10年が過ぎた。
先日17日は親父の車を借り、二人で伊勢神宮まで諸願成就の参拝に行ってきた。
何年振りだろうか、珍しく彼女から手を繋いでくる。
二人で境内を歩く、傍目には恋人同士に見えたかも知れない。
天の邪鬼だから、直ぐに強がって見せる女の子なんだ。
本当はこれからの生活に不安も感じている事が小さな手から伝わってくる。
俺も何も言わない、ただ、今は彼女の為に手を握ってあげる。
車内でお菓子食べながら笑う、天真爛漫な笑顔の彼女
伊勢でお昼ご飯を食べる、好き嫌い激しいから悩む彼女
神宮を歩いてお参り、珍しく真面目な顔を見せる彼女
遅いお昼食べたばっかなのに食べ歩き、小さな体の何処入ってんだ?
車内で不意に静かになる、歩き疲れて眠る彼女、カーステのボリュームも静かに…
他県まで送り晩ご飯を食べる、トンカツ喰ってデザート、「No Problem!」だってwww
そんな楽しい一日を過ごした、会話なんか無くても幸せだった。
次の26日には仕事を休んで彼女を迎えに行ってきます。
『世界で一番可愛い女の子』
『世界で一番嫌いな人間』
だけど
『世界で唯一愛しい女性』
『世界でただ一人大切な人』
なんだ。
神様、僕は何も望みません、だからどうか彼女の夢が叶います様に…